6月12日(水)。
深夜に横浜から帰ってから迎える、宮城への日帰り観戦。
怒涛の6日間連続観戦の4試合目ということもあり、体力的にはここが一番のヤマ場だ
今回も3日前のメキシコ対エクアドルの時と同様に、「やまびこ たび割7きっぷ」を利用。
例によってNさんと7時前に大宮駅で待ち合わせし、早朝の「やまびこ」に乗る。
半月足らずで3回目のこの展開は、さすがに飽きる(笑)。
今日ばかりは、Nさんの表情にも疲労の色は濃い。
そりゃあ働きながら俺のこんな無茶苦茶な計画に付き合ってくれているんだから無理もない。
3日前の宮城日帰りは天気も良かったし体力的な余裕もあったので景色を楽しんでいられたが、今日は曇りだし何しろ体が重い。
仙台までの車中は二人して寝続けた。
そうして、3日ぶりの仙台に到着。
まだ眠い。寝足りない。
仙台の街歩きも3日前にしたばかりなので、睡眠時間の確保と乗り鉄を含めて、8:51に仙台を発車する快速「南三陸」に乗ろうとNさんに提案した。
Nさんも寝不足のため快諾。
気仙沼行きの旧型気動車に乗り込んだ。
ボロいキハ58に都市部で乗れるのは珍しい。
容赦なくバリバリ轟かせるエンジン音が心地よく、途中の小牛田まで眠り続けた。
そこから列車は前谷地、気仙沼と沿岸部を目指していくが、乗り続けると仙台に戻る時間が遅くなるのでここは小牛田で下車。
今思えば、これから9年後の大震災の影響で復旧が叶わず気仙沼線がBRT化され消滅したこの「南三陸」に乗ったのはこの日が最初で最後だった。
小牛田から普通列車に乗って11時前に仙台に戻る
今日はメインスタンドでの観戦のため、3日前のように利府経由ではなく仙台駅からバスに乗って宮スタに向かうルートを指定されている。
そのため、アーケード街から少し脇に入った地下にあるおいしそうな定食屋さんでトンカツ定食を食べた。
その後俺は社会人になってから仙台で5年間ほど暮らすことになるという縁があり、このお店ではその間一度しか食べず特に美味しかったわけでもなかったが、W杯観戦で訪れたこの時はなぜか無性においしく感じた記憶がある。
宮スタまでピストン輸送してくれるシャトルバスに乗り、青空の3日前と異なりどんよりした曇り空のスタジアムへ到着。
嵐のような試合になる前兆か。
この日もチケットはスウェーデンのTST-3 カテゴリー1で、過去2試合はいずれもバックスタンドのコーナー寄りだったが、このアルゼンチン戦だけはメインスタンドの実質最前列!
スウェーデンベンチのすぐ脇という好位置だ。
これは楽しみだなと思っていた矢先に、アルゼンチンの選手たちがウォーミングアップのかなり前にピッチ状態の視察に姿を現す。
生で見る世界的な有名選手たちの姿に興奮!
うお! ヴェロンじゃん!
あれがラツィオをセリエA制覇に導いた右足か!
その時間はあっという間だったが、この場所なら中盤の攻防もゴール前の迫力も楽しめることだろう。
ちょっと間食している間に、アルゼンチンの選手たちがウォーミングアップに登場。
向こう側のスタンドからは低く轟くような歓声が響く。
アルゼンチンのサポーターの幕はやはりカッコいい。
スタジアムの南側半分はワールドカップ南米予選のような雰囲気だ。
スウェーデン側も、埼玉・神戸の時のように大勢のサポーターが宮城へ来ている。
スウェーデンとしては初戦のイングランド戦・第2戦のナイジェリア戦とも自信に繋がる内容だったはず。
それがこの試合で彼らの支えとなるのか、あるいはそれが崩れるのか。
メンタル面でのせめぎ合いもこの試合を左右する要素になっていくだろう。
さて、このグループ最終戦を前に、『死の組』グループFの順位を見てみよう。
1位 スウェーデン 4pt +1 3
2位 イングランド 4pt +1 2
3位 アルゼンチン 3pt 0 1
4位 ナイジェリア 0pt -2 1
15:30同時刻キックオフで、宮城ではスウェーデン対アルゼンチン、大阪ではナイジェリア対イングランドが行われる。
スウェーデンは引き分け以上で決勝トーナメント進出、アルゼンチンは勝てば突破だが引き分けではイングランドが負けない限り敗退となる。
もっとも、決勝トーナメント1回戦の相手となるグループAでは本命のフランスが脱落し、1位デンマーク、2位セネガルという意外な結果となった。
そのため、フランスが前評判通り1位通過していれば「2位通過より1位通過しておきたい」と各チームとも思っていただろうが、こうした順位になったことによって「1位でも2位でもどっちでもいい」という雰囲気になっていたことにも触れておこう。
いずれにしても、3位以下になったらそこで終わりだ。
スタジアムにはグループ第3戦ならではの独特の緊迫感がすでに漂っていた。
実質的に勝つしかないアルゼンチンは、当時好きな人も多かった3-4-3の布陣だ。
チャモ、サムエル、ポチェッティーノの3バックにサネッティとソリンの両ウイングバック、アルメイダがワンボランチで鬼のように働き、その分攻撃に特化した前線はトップ下にアイマール、3トップは右からオルテガ、バティストゥータ、クラウディオ・ロペスだ。
ラツィオで輝きマンチェスター・ユナイテッドに移籍していたヴェロンや当時インテルにいたクレスポといった実力者はベンチスタート。
バランスが大切とはいえ、こうしたやりくりにはビエルサ監督も腐心していたことだろう。
対するスウェーデンはほぼ固定メンバー。
5日前のナイジェリア戦で2発と覚醒したエース・ラーションやハイパフォーマンスを続けるイケメンMFアンデシュ・スベンションに期待がかかる。
これまでのどの試合とも違う独特の緊迫感が漂う中、アンセムとともに選手が入場。
9試合目にして、メインスタンドで観戦する初めてのワールドカップだ。
ここからだと、ピッチへ入っていく選手たちの姿がより一層カッコよく見える。
スウェーデンは今大会初の1stユニフォーム、アルゼンチンは紺色の2ndユニフォームだ。
せっかくのメインスタンドの席なので国歌斉唱の場面を綺麗に写真に残したかったが、席が前過ぎてベンチで隠れてしまっていたのはご愛敬。
さあ、『死のグループ』の決着をつける90分間の始まりだ!
試合が始まると、勝つしかないアルゼンチンがメインスタンドから見て左のゴールを目指し飛ばしてくる。
バティストゥータがさっそく強烈なFKを見舞う。
特に他チームと違っていたのが、左右のウイングバック。
左のソリンと右のサネッティがかなり高い位置をとっているので、ボールを奪うと6人がかりでの攻撃になる。
特にソリンは、サイドのプレーヤーとは思えないくらいエリア内に入ってくる。
当然その分だけカウンターを受けるリスクも増すが、それだけ人数をかけるとゴール前の危険度はかなり上がってくるのだ。
スウェーデンにとって最初の決定的ピンチはそのサイド攻撃から。
右のサネッティからのクロスに、バティストゥータの背後になぜか詰めていたソリンが潰れ、ファーへ流れたボールにクラウディオ・ロペス!
豪快なシュートはニアのサイドネットに弾かれた。
アルゼンチンの攻勢は続く。
またしても右から中央へ繋ぎ、アイマールが左に流した所を再びクラウディオ・ロペスが狙いすました左足!
威力十分のシュートはゴール左上へギリギリ外れた。
危ない。
あんな速さのシュートを枠に飛ばされたらひとたまりもない。
が、それがわずかに外れるのは若干なりとも焦りが作用しているからだろうか。
一方のスウェーデンは、ナイジェリア戦と違いなかなか攻め込めない。
むしろ、ボールを奪われるとすぐさまアルゼンチンの迫力ある攻撃にさらされるため、消化不良の前半だった。
そんな、0-2になっていてもおかしくない展開だったが、スコアは0-0のまま。
アルゼンチンにとっては苛立ちが募る。
そんな中で、ワールドカップでは滅多に見ることのない「珍事件」が起きた。
前半アディショナルタイム、判定を巡ってピッチ中央付近にいる主審へ何か言ったアルゼンチンのベテランFWカニーヒアに向かい、主審が歩み寄る。
そして、ベンチの前で彼にレッドカードを提示。
まだ試合に出ていないカニーヒアはそこで退場となり、苦笑いしながらメインスタンド下へ消えて行った。
イタリア大会、アメリカ大会、フランス大会に続き4度目のワールドカップに臨んだ彼は、日韓大会では1分も出場しなかったもののレッドカード1枚を記録するという珍しい「最後のワールドカップ」となった。
前半はこちらの試合も大阪でのナイジェリア対イングランドも0-0で終了。
このまま終われば、順位は動かずスウェーデンとイングランドが決勝トーナメント進出だ。
つまり、アルゼンチンとしては何としても勝ってこの試合を終える必要がある。
後半へ向け、策士・ビエルサはどんな作戦を携えたのか。
絶対的なミッションを背負ったアルゼンチンの選手たちが再びピッチへ入ってきた。
後半の序盤もアルゼンチンがスウェーデンを押し込む。
右クロスにはバティストゥータ、それが流れた所からの左クロスにはソリンが突っ込むものの合わなかったが、脅威を与えるには十分な波状攻撃だった。
だが、後半12分、守勢からボールを奪い返したスウェーデンがロングカウンター。
センターサークル付近でボールを受けたアンデシュ・スベンションがペナルティエリアを目指し突進する。
そこでアルメイダがたまらずファウル。
ゴール正面であるもののゴールへの距離はやや遠いが、ちょうど俺の席からも間近に見える位置でスウェーデンがFKを獲得した。
プレー再開の前に、アルゼンチンが選手交代。
バティストゥータを下げ、クレスポを投入する。
キャプテンマークはサネッティに渡った。
クレスポが壁の中央に入り、FKでプレー再開だ。
キッカーはラーションか、アンデシュ・スベンションか。
ホイッスルが鳴り、遠くからドドドドッと走り込んだラーションが豪快に!
…と思わせておいて彼はボールをまたぎ、直後にスベンションが短い助走で右足を一閃。
壁を越えたボールは美しい軌道を描いてゴール左に決まった!
現地メディアの人も取材を忘れてこの姿だ。
大きな、とてつもなく大きな先制点!
メインスタンド側へ歓喜のダッシュをするスベンションにスウェーデンの選手たちが駆け寄る。
ゴール裏やメインスタンドに陣取るスウェーデンサポーターも歓喜爆発!
これで、残り30分で2点取られない限り決勝トーナメント進出だ。
イングランドやナイジェリアに押し込まれる時間があっても大崩れしなかった守備力を持つスウェーデンにとって、この余裕は非常に大きかった。
見逃せないのが、この時のラーションの動き。
彼のシュートモーションに釣られて0コンマ数秒動きが遅れたのか。
GKカバジェロはボールに触れたものの枠の外に弾くことはできなかった。
このレベルでは、こうしたディテールが勝敗を左右するのだということを思い知った。
イングランドが同点である以上は実質的にあと2点が必要なアルゼンチンは、すぐさまヴェロンを投入し前線へ圧力をかける。
ヴェロンのFKに2人が飛び込んだがこれはオフサイド。
その後も、右へ流れたボールをサネッティが強烈なシュートを見舞うが、GKヘドマンが指先ギリギリでコースを変える。
さらに、右から左から、ターゲットを変えながらクロスが何本もスウェーデンゴール前へ襲い掛かる。
確かな技術に裏打ちされたアルゼンチンの猛攻の迫力はケタ違いだ。
スウェーデンのDFラインはズルズルと下がる。
そして後半41分、向こう側のゴール右寄りでオルテガがボールを受け、クロス…と思わせて縦へ突破。
そこへスウェーデンのヨンソンが足をかけてしまい、オルテガは待ってましたとばかりに大げさに転倒。
ホイッスルが鳴り、PKとなる。
アルゼンチンサポーターの歓声というか騒然とした雰囲気の中で、PKを蹴るのはオルテガ。
右を狙ったキックはヘドマンが止めたが、走り込んでいたクレスポが意地の同点ゴール!
「ッフォォォォオオオオオオーー!」
ここは南米かと思うようなアルゼンチンサポーターからの怒号に近い歓声が一気に響く。
改めて映像で見ると、オルテガのキックの前に、疑いようのないくらい明らかにクレスポがペナルティエリア内に入っていたのだが、この頃はそういうのにうるさくない時代だったので普通にゴールは認められた。
残り時間は、アディショナルタイムを含めてあと5分はあるだろう。
まだわからない。
ただ、このゴール直後のシーンは印象的だった。
追いつかれたスウェーデンは、終盤は控えの選手たちや途中交代した選手も全員総立ち。
失点しても、いや、だからこそチームが一つになってピッチに立つ11人を鼓舞し続けていたのだった。
なおも攻め込むアルゼンチンは左のペナルティエリア角へクラウディオ・ロペスが走り込む。
三度目の正直とばかりに撃ち込まれた弾丸シュートは、またしてもニアのサイドネットを揺らして外れた。
3本のうち1本でももう少し右に飛んでいたら全然違う試合になっていただろう。
なりふり構わず人数をかけて攻めるアルゼンチン。
ナイジェリア戦の終盤以上にゴール前に人数を集めて必死の防御を見せるスウェーデン。
ワンプレーごとに皆が時計の針を見る。
なんだこの緊迫感は!
ワールドカップのグループリーグ最終戦の終盤ってこんな気持ちになるのか!
そして、スウェーデンにとって長い長いロスタイムの終わりを告げるホイッスルが鳴った。
息詰まる熱戦は1-1で終了。
スウェーデンイレブンは歓喜の抱擁を繰り返し、アルゼンチンの選手たちは一斉に膝をついた。
スコアは引き分けだが、明確に分かれた勝者と敗者のコントラスト。
そして、ナイジェリア対イングランドがスコアレスドローに終わったことを場内が察すると、その差はより顕著になった。
前回大会ベスト8のアルゼンチンがグループ敗退。
そう、これが『死のグループ』なのだ。
2位 イングランド 5pt +1 2
—————————————
3位 アルゼンチン 4pt 0 2
4位 ナイジェリア 1pt -2 1
2位になったイングランドはデンマークと対戦することになった。
3試合ともたびたびピンチがあったものの、最少失点に抑えた殊勲のGKヘドマンが歓声に応える。
派手さはないが、どんな強敵と対戦しても接戦に持ち込めることだろう。
俺も朝の眠気がウソのように試合中は心臓バクバクだったが、夢から醒めていくような気分でバスの景色を眺めていた。
そして、日本国内で観戦するワールドカップも11試合中あと2試合だ。
<前回の6月11日分は コチラ >
<次回の6月13日分は コチラ >
★ 20周年記念 2002日韓ワールドカップ観戦記『魂の記憶』
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⇒ 【目次】20周年記念 2002日韓ワールドカップ観戦記『魂の記憶』
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(この情報は2002年6月時点のものです。)
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