DAY 19:6/18(火) ラウンド16 韓国vsイタリア(大田)観戦記 ~20周年記念 2002日韓ワールドカップ観戦記『魂の記憶』~

6月18日(火)。
海の上で朝を迎えた。

固いカーペット敷きの2等船室で眠り続けたおかげで体のところどころが痛い。

洗面所で顔を洗ってから甲板に出ると、船は夜明け前の海原を進んでいた。

 

やがて朝日が昇る頃になると、景色はさらに良くなった。

強烈な風だが、それも心地よい。
船旅ならではの特別な情景だ。

いくつかの島が見え、進路の先に朝鮮半島が見えてきたところで船内へ戻った。

 

釜山(プサン)港到着は8時の予定だったが、それよりかなり早く案内のアナウンスが入る。

荷物をしまい、釜山港に接岸するところを見ようと通路へ出た。

 

港が近づく。

随分昔の家族旅行でカナダへ、2年前の短期留学でオーストラリアへ、それぞれ一度だけ行ったことがあったが、俺にとってユーラシア大陸はこれが初めてだ。

船が岸に着き、ロープでグルグルと係留される。
タラップが架けられ、下船が始まった。

釜山駅から乗る特急の「セマウル」号は念のため船が遅れても乗り継げるように11時頃発の列車を予約したので、釜山では3時間くらい余裕がある。

船を下りるのは最後の方で良いだろう。

 

半日も船に乗ったのは初めてだったし、夜行フェリーも初めてだったが、これはこれで良い経験だった。

次に乗るときはもっと良い船室がいいなとは思ったけれども。
(ちなみにこの3年後、イタリアのアンコーナからギリシャのパトラまで24時間かけてアドリア海を横切る航路に乗ったのが今のところ人生で最長となる乗船だ。その時も懲りずに2等船室だった。)

 

一人で通るのは初めてとなる入国手続きはドキドキしたが、「日韓共同きっぷ」とパスポートと帰りの博多行きジェットフォイル「ビートルⅡ」のバウチャーを見せるとほぼ何も聞かずに通された。

日本人の韓国入国なんて珍しくもないのでこんなものだろう。

 

とりあえず、フェリーターミナルにある銀行の窓口で当面必要な韓国ウォンへ日本円から両替した。

1万円が約10万ウォンになったので、急に金持ちになった気がした。

 

港の外に出ると、目にする文字も、耳にする言葉も、わからないものだらけだ。

「外国に来たんだな」

隣国とはいえ、その実感が高まった。

 

釜山の街を歩くといっても、バックパックを背負っているのでそう遠くまで歩くのは難しい。
セブンイレブンがあったのでそこで気分転換にハングル全開の缶コーヒーを買った。

海が見えるベンチに座り、港や船を眺めながら缶コーヒーを飲む。

日本の缶コーヒーのような味を想像していたら、えらいマズくてびっくりした。

 

いずれ釜山の街は旅の最後で丸一日過ごす時間があるので、ちょっと早いが釜山駅へ向かう。

韓国の鉄道網の大動脈である京釜線の終点、そして日本へ続く海の始まり。
まさに「終着駅」というムードがぴったりの駅だった。

 

韓国の駅にも新聞を売っている場所が至る所にあり、そこは今夜の韓国対イタリアの話題がたくさん。

ハングルなので何と書いてあるのかはわからないが、韓国も盛り上がっているのだなと感じる。

 

やがて、ホームにガタイの大きな列車が入ってきた。
赤と青のカラーリングが印象的な「セマウル」号だ。

韓国の国鉄は当時、グレードが高い順に、特急に相当する「セマウル」、急行に相当する「ムグンファ」、準急に相当する「トンイル」の3種類が主にあった。

「日韓共同きっぷ」ではセマウルに乗れる。
きっぷはソウルまで有効だが、俺は今夜の試合がある大田(テジョン)で降りるのでその先は前途放棄だ。

ソウルまでは3時間かかるが、大田なら1時間半程度で着く。

 

バックパックを網棚に載せて、きっぷに書いてある進行方向右側の窓際の席に座る。

車内はビジネス客でいっぱいだ。
どう見ても日本人の一人旅である俺は、明らかに浮いていた。

 

日本の在来線よりレールの幅が広い標準軌だけあって、ドッシリとしたスタートで「セマウル」は走り出した。

ゴツい外見とは裏腹に、車内は意外と静かだ。

隣の席には韓流サラリーマンが座り、新聞を読んでいる。
余裕があれば車内の食堂車に行こうかとも思っていたが、その人の前を何度も出入りするのも悪いし、昼食は大田に着いてからにしよう。

 

大田まで1時間半ほどの列車の旅は、釜山近郊や大邱(テグ)など都市部付近を除き、ほとんどが山や岩といった荒涼とした景色の中で進んだ。

MDも聴かずにボーッと車窓を眺めているうちに「セマウル」は大田に着いた。

バックパックを下ろし、列車から降りる。
韓国のほぼど真ん中に位置するこの都市では、下車客も乗車客も多かった。




 

韓国のW杯開催都市の宿は、インターネットで一律価格で予約できた。
民宿やビジネスホテルなどいわゆる安宿の部類は、通常は2,500円ほどなのだが、大会期間中は一律5,000円ほどで統一。

なので、その価格帯の中で駅への近さや部屋のキレイさなどを手掛かりに宿を予約していた。

 

大田で選んだのは、駅から歩ける範囲の民宿っぽい宿。
なんとなく、最初に泊まるここだけは韓国特有のオンドル部屋(床暖房のような部屋)を予約していた。

チェックインは15時だったのでかなり時間はあったが、13時前でも中に入れてもらえた。

部屋に案内されると、一人で過ごすにはもったいないくらい広い部屋だった。
この部屋なら8人くらい泊まれるんじゃないだろうか。

 

今夜見に行く試合は20:30キックオフだが、その前に15:30から宮城での日本対トルコの試合がある。

きっと韓国でもその中継を見られるでのはと思い、先に昼食をとることにした。

 

宿のおばちゃんに、このへんで安い食堂はない?みたいなことをジェスチャーで聞き、近くのお店を教えてもらった。

たしかに、地元の労働者っぽいおじさんたちで繁盛している。
メニューはハングルばかりで全くわからなかったが、うまそうな冷麺をすすっているおじさんがいたので、店員のお兄さんに「あの人と同じのにして!」と頼んだ。

地元の人が食っているうまそうなものをマネして注文する。
語学力など必要ないこのやり方はやがて、俺が海外一人旅で安く・美味しい食事にありつくためのスタンダードな注文方法となった。

 

期待通りうまい冷麺を平らげ、宿に戻る。

部屋のテレビではなんと日本のNHK衛星第一が映るではないか。

食後で気持ちよくなっていたこともあり、布団を敷いて横になりながらテレビを見る。
火曜の昼間なのに、なんて贅沢な過ごし方だろうか。

 

15時のニュースでは鈴木宗男が逮捕されていた。
その後、日本対トルコの生中継が始まった。

テレビに映る宮スタは雨だった。

前半にもったいないミスからCKを与え、そこから失点。
その後はなかなか攻められず反撃の糸口を見いだせない。

正直言ってどちらも決定機に乏しい退屈な試合だったので、そのうちにうたた寝をしてしまった。

 

目が覚めたのは後半も残り5分程度といった時だった。

0-1のまま試合が終わり、日本代表のワールドカップはベスト16で終わった。

 

20:30からの試合に行く前にまたそのへんで軽く食べようかなと思っていたら、宿のおばちゃんが部屋のドアをノックしてきた。

何かと思ったら、今日は他にも試合観戦する宿泊客がいるらしく、お腹が減るだろうから持って行きなさいとおにぎり(のようなもの)を渡しに来てくれたのだった。

 

さらに、

駅まで行ってからシャトルバスに乗るのも面倒だから、18:30にタクシー呼んじゃうわよ?
みんなで割り勘しなさいよ。

みたいなことを言われる。
韓国のタクシーは安いから割り勘すれば数百円~千円しない程度の負担で済むだろう。

どんな人たちかは不明だが、その話に乗ることにして試合観戦の荷物を整えることにした。

 

18:30に玄関へ行くと、俺以外にサッカー観戦と思われる宿泊客が5、6人立っていた。

おばちゃんが呼んだタクシーが2台あり、適当な順番で乗り込んだ。

 

俺が乗った方のタクシーは、助手席に俺、後部座席の右側に韓国人一人、真ん中と左が韓国人2人組という全員男の構成となった。

大田のスタジアムは駅から7~8km西に行った所にあり、正直言って不便だ。
今は地下鉄で行けるらしいが、当時はそれがなかったので大田駅からバスで行くしかなく、タクシーで行けるようになったのは楽だった。

 

日本より西にあるだけあって、韓国の日没は遅い。

19時頃でもまだしっかりと太陽が出ている。

 

まさにその西日が輝く方向へタクシーは走り続けた。




 

渋滞にハマることなく、タクシーは大田ワールドカップスタジアムの手前の封鎖エリアの前へたどり着いた。

同乗した4人で、一人あたり約500円ずつくらいだっただろうか、割り勘してそれぞれのスタンドへ別れる。
俺はメインスタンドの入り口の方へ向かった。

すでに9割以上韓国人だろうという割合で周囲は真っ赤な状態だ。

 

俺の今日のチケットは、海外販売分のバラで買ったカテゴリー2。
たまたまだが、メインスタンドの韓国側ペナルティエリア付近、2階席だがその中では前方の席だ。

メインスタンドの入口はこのような立派なつくりだ。

 

カクカクした箱型のスタジアムが好きな俺にとっては、韓国10会場の中で一番好きな見た目だったのがこの大田だった。
期待に胸を膨らませながらスタジアムへ入る。

中に入り、2階席への階段を上りながら外を見る。

これはこれは、ものすごい赤の大群だ。
そのうちスタンドは真っ赤になるのだろう。

 

階段を上りきり、スタンドに入る。

おおお!
これはすごい視界!

 

このスタジアムは1階席も2階席もかなり傾斜角度があり、とても見やすい。

2階席でも十分にピッチが近い。
日本で言えば、鳥栖スタジアムを4万人規模に拡大したような感じだろうか。

さらに、実はこの韓国旅行での4試合はすべてカテ2のチケットを買っていたのだが、この試合が一番カテ1に近い席だった。
というより、日本開催の試合だったらここはカテ1じゃないか?というくらいカテ1寄りだったのでラッキーだった。

俄然試合が楽しみになった。

 

この試合は、1位通過だった韓国がホーム扱いなので、メインスタンドから見て左側のゴール裏が韓国側だ。

すでに座席に赤と白のシートが置いてあるので、何かコレオをやるのだろう。

 

ちょっと時間があるので、韓国側のゴール裏1階席をチラ見しに行った。

 

やはり1階席も見やすそうなスタジアムだ。

 

試合が近づくにつれて、空は徐々に暗くなっていった。

両チームのウォーミングアップが始まる頃には、スタンドの人数もかなり増えていた。

 

メンバー発表。

イタリアはグループリーグのメンバー構成を軸としながら、前線はヴィエリ、トッティ、デルピエロの3人を同時起用。

韓国はポルトガルを撃破したグループ最終戦と全く同じスタメン。
チームを率いるのはオランダ人のフース・ヒディンク監督だ。

 

選手入場に合わせ、ゴール裏の1階席と2階席それぞれにコレオが広がった。

 

「AGAIN 1966」。

1966年のイギリスワールドカップで北朝鮮がイタリアを1-0で破った試合の再現を、という意味だろう。

 

メインスタンドだけあって選手が入ってくるシーンもよく見える。

1位通過の韓国がホーム扱いではあるが、ユニフォームは韓国が白い2ndユニフォーム、イタリアは青い1stユニフォームだ。

 

向こうのゴール裏の1階席に少しだけイタリアサポーターもいた。

逆に言えば、それ以外はほとんどが韓国サポーターということでもある。

 

韓国の国歌斉唱。

モニターに映っているキャプテンはベルマーレ平塚や柏レイソルでプレーしていたホン・ミョンボだ。

 

空気は、グループリーグの「お祭り感」とはまるで違う。

これまでの試合とは異なる騒然とした空気の中、キックオフとなった。

 

試合は序盤から激しさを見せる。

前半4分、右サイドを突破したパク・チソンへMFココがファール。
そのFKから、エリア内で韓国の選手2人が倒され、どちらがファールと判断されたのかはよくわからなかったがPKとなった。

いきなり迎えた韓国の大チャンス。
スタジアムの騒然とした空気に拍車がかかる。

その中でPKを蹴るのは、アン・ジョンファン。

左隅を狙ったキックはGKブッフォンが鮮やかにストップした。

 

頭を抱えるアン・ジョンファン。

イタリアは早々に命拾いをした。

 

そこから、イタリアは試合を落ち着かせようとボールを保持する時間を長くする。

足元の技術が高いので、アグレッシブに寄せてくる韓国もそう簡単にボールを奪えない。
徐々に青いユニフォームがこちら側のゴールに迫ることが増えていった。

 

前半18分、目の前のコーナースポットからイタリアがCKを獲得。

蹴るのは10番のトッティ。
ニアへ送られた速いボールに合わせたのはヴィエリ!

 

体躯を活かして相手をうまくブロックし、頭でねじ込んだ。

イタリアにとって、序盤の暗雲を払いのける大きな先制弾となった。

 

場内は数秒間の静寂ののち、「テーハミングッ!(大韓民国)」のコールが戻る。

 

韓国も反撃。
36分にはアン・ジョンファンがエリア内に抜け出してシュートを放ったがブロックに遭い上へ飛んだ。

その直後には、イタリアが鮮やかなパス交換からトンマージがフリーで抜け出したが、この1対1はGKイ・ウンジェが弾き出した。

 

中身の詰まった前半は0-1のイタリアリードで終わった。

 

ハーフタイム、右隣の席に座っていたメキシコ人が話しかけてきた。
彼は前日に全州(チョンジュ)であったメキシコ対アメリカの試合を見て、今日は大田に来たそうだ。

メキシコが1位通過でも2位通過でもラウンド16を観戦できるように両方のチケットを買っておいたらしい。

この試合が終わったら準々決勝のある蔚山(ウルサン)に向かうとのこと。
彼も俺もその後はソウルでの準決勝に行くので、そこでまた会えるかもしれないねと話した。




 

後半も、試合は落ち着く様子を見せない。

15分、直接FKと見せかけてパク・チソンがチョビしてからアン・ジョンファンがズドン!
イタリアの隙を突いた一撃はわずかにゴール上に外れた。

 

このあたりから試合は激しく揺れ動く。

後半27分、右サイドを突破したザンブロッタに対し、どう見ても届かないのにファン・ソンホンがスライディングを敢行。

ボールとは全然関係のないケツにスパイクが入るという一発退場ものの殺人タックルだったが、イエローカードすら出なかった。
ザンブロッタはこのプレーで負傷退場。

のちに全治3ヶ月の重症であることが判明した。
(物議を醸したこの試合のジャッジでは基本的に誤審を認めていないモレノ主審だったが、このプレーだけは誤審だったと振り返っている。)

 

そのすぐ後にはスルーパスに反応したヴィエリが抜け出したが、らしくないシュートミス。

その3分後にはまたもヴィエリがエリア左に抜け出したが、逆サイドのウイングバックなのに全力で追いかけたイ・ヨンピョの捨て身のスライディングがわずかにシュートに当たり、ボールはふわりと浮いてゴールネット上に落ちて外れた。

このシーンを覚えている人はほとんどいないと思うが、生で見た俺としては韓国代表にとってこの試合で一番のファインプレーだったと思えるような場面だった。

 

そう思っている間に今度は韓国に同点のチャンス。

ソル・ギヒョンがエリア左でボールを受け、千載一遇のシュートチャンス。
思いっきり撃ち込んだシュートはニアのサイドネットを揺らして外れた。

 

お互いに消耗しつつある時間帯でありながら、ゴールを脅かす攻防の連続。

スタジアムの空気はより密度を増していったように感じた。

 

そうしている間にも時計は進み、後半も40分を過ぎた。

イタリアも疲労や焦りでらしくないミスもあったが、それでも自慢の守備は崩れず、スコアは0-1のままだ。

 

やっぱりイタリアは強い。

なんだかんだ言って、このままウノゼロでイタリアが勝ち切るのではないか。
少なくともこの頃まで俺はそう思っていた。

 

ところが。

後半43分、韓国の波状攻撃からの右クロスに対しゴール前のDFパヌッチがうまくクリアできずボールがこぼれる。

そこに詰めたソル・ギヒョンがシュート!

 

これがブッフォンの牙城をついに崩し、ゴールネットを揺らした。

とてつもない、爆発的な歓声だ!

 

残り2分で1-1の同点に。

ソル・ギヒョンがこちら側へ倒れ込む。
2階席も総立ちだ。

 

これで試合はわからなくなった。

勝利目前で追いつかれ延長戦を強いられるイタリアのダメージは計り知れない。
たとえ韓国にゴールデンゴールを決められずに延長戦をスコアレスで凌いだとしても、この空気の中でPK戦をやらなければならないのだ。

スコアは1-1だったが、スタジアムのムードから言えばもう1.6対1くらいのスコアと言っても過言ではなかった。

 

その勢いに乗せられたかのように韓国が畳みかける。

後半ロスタイム、CKからの2次攻撃でふわりと浮いたボールに途中出場の坊主頭 チャ・ドゥリがフリーでオーバーヘッド!

スタジアムの空気が一瞬止まったような静寂があったが、その豪快なシュートはブッフォンが正面でセーブした。

 

ジェットコースターのような90分間が終わり、試合は延長戦突入だ。

特に後半はお互いにかなりハイテンションな攻防だったので、選手にかなりの負担を強いたはずだ。

 

束の間のリカバリータイム。

それが終わると、延長戦のが始まりだ。

 

延長戦でも、ゴールデンゴールで試合を決めるチャンスが双方に訪れる。

延長前半11分、パク・チソンがマルディーニのファールを受けFKに。
これをファン・ソンホンがトリッキーにグラウンダーで狙ったもののブッフォンが横っ飛びで弾いた。

その2分後、ロングボールに競り勝ったヴィエリが頭で流したボールをトッティが受け、エリア内へ突進。
ソン・ジョングクのスライディングとともに、トッティが倒れる。

笛が鳴る。

PKか?

…と思ったが、判定はトッティのシミュレーション。
2枚目のイエローカード、そしてレッドカードが提示された。

 

このシーンもモレノ主審による誤審の一つと言われているが、生で見た時もその夜にリプレーを見た時も、辛うじてソン・ジョングクがボールに触っているので明確なファールだとは言い難いのではと感じた。

それでもトッティにコンタクトしているのも確かなので難しいところではあったが。

 

延長後半に入ると、さすがに両チームとも体が重そうだ。

延長後半5分、ヴィエリが自分で突破しようとしたら前方にボールがこぼれ、そこにトンマージが抜け出してGKと1対1になったがオフサイドの判定。
これも「モレノ疑惑」の一つだったが、かなり微妙なタイミングだったので副審でさえジャッジするのは簡単ではなかったと思う。

と思ったら、今度はこちら側へ攻める韓国が左からソル・ギヒョンのクロス。
エリア内でアン・ジョンファン、ファン・ソンホン、イ・チョンスの3人が余るというイタリアらしくないギャップが生じていたが、ファン・ソンホンのヘッドはブッフォンの正面だった。

 

その直後、次はイタリアが試合を決めるビッグチャンス。
デルピエロもヴィエリももうバテバテだったが、スタミナ全開だったガットゥーゾが敵陣で一人でボールをカットし、そのままゴール前へ。

「これで決まりか!?」

と思われた渾身のシュートは、GKイ・ウンジェがビッグセーブで弾き出した。

 

イタリアにとって延長戦で最大の決定機。

これが決まっていたら、歴史はまた違っていただろう。

 

1-1のままPK戦突入か、それともどちらかがゴールデンゴールを奪うか。

残り時間はあと2分となった。

 

そして。

延長後半13分、日韓W杯の中でも屈指のドラマティックなゴールが決まる。

メインスタンド側となる左サイドに展開した韓国は、ちょうど俺の目の前に近い位置でイ・チョンスがロングボールを拾う。
マイナスに戻されたボールを受けたイ・ヨンピョが狙いを定めてエリア内にクロスを送ると、そこへジャンプしたのはPKを含めこの試合でシュートを外して外して外しまくっていたアン・ジョンファン!

見事に頭でコースを変えたシュートが、ファーサイドに決まった。

 

ゴールデンゴール。

2-1で韓国が準々決勝進出だ。

 

同点ゴールの時も凄かったが、それ以上の、スタジアムが壊れたんじゃないかと思うほどの声が爆発する。

メインスタンドへ走り込んだアン・ジョンファンをめがけてチームメイトが一斉になだれ込む。

 

不意に、右隣のメキシコ人と目が合い、お互いよくわからないが何か叫んだ。

無言でいられるような状況ではなかった。
フットボールは時として理性や言語といったものを超える瞬間を創り出すが、この時はまさにそれだった。

 

歓喜の韓国イレブンと落胆のイタリアイレブンでフィールドの中はごちゃごちゃだ。

 

ヒーローとなったアン・ジョンファンがようやくコーナー付近から歩き出す。

彼自身、喜び疲れてぐったりしているほどに見えた。

 

最後に、韓国の選手たちがピッチを一周する。

スタンドが揺れ動くような大歓声だ。

 

選手たちが引き揚げた後も、スタンドはまだ騒然としていた。

それも無理はないだろう。
俺だって、日本代表がイタリアやドイツなどに決勝トーナメントで勝ったらさすがに正気ではいられないはずだ。

 

会場を出ると、路上のあちこちから「テーハミングッ」とコールが起こり、人の流れもめちゃくちゃなカオス状態となっていた。

よけるようにしてその隅を通り、シャトル乗り場へ行く。

 

まだみんな騒いでいて帰る気がないのか、大田駅行きのシャトルバスにはすんなり乗れた。

着席している人々も、いまだに興奮しながら会話をしている。
スタンドの熱気がバスの車内にも持ち込まれたような雰囲気だった。

バスが走るルートでもあちこちでクラクションを鳴らす車が現れ、大声で叫ぶ若者も散見された。
初めての海外一人旅の初日がこんなイカレた夜になるとは夢にも思わなかった。

 

ちなみに、この日の試合はモレノ主審の八百長疑惑も浮上するほどの大誤審としてワールドカップの歴史の中でも一大スキャンダルとなったが、現地で観戦していた俺からすれば、たしかに誤審もあったし微妙な判定も複数あったけれど、意図的に試合が操作されたという印象はなかった。

この試合でヤバみのあるシーンは以下だっただろう。

①開始早々の韓国のPK獲得

②イタリアのココの頭部大流血

③ザンブロッタのケツへのファン・ソンホンのタックル

④トッティが受けた接触をファールにせず、逆にシミュレーションとして2度目の警告、退場とした

⑤マルディーニの頭へのイ・チョンスのキック

⑥トンマージが抜け出して1対1になったシーンのオフサイド判定

 

①はまあイタリアの選手が韓国の選手と接触している以上ファールであっても不思議はないし、②は不可抗力としてやむを得ない接触と言えるだろう。
④は上述のようにソン・ジョングクの足はボールに触れているし、⑥は副審にしか判断できない微妙なものだった。

③と⑤は退場ものだったので、この2つを正確にジャッジしていたらイタリアは逃げ切りまたはゴールデンゴール勝ちに近づいただろう。
ただ、これらを見逃したのは八百長のような故意のものだったのではなく、単にモレノ主審の位置が悪く判別できなかった、つまり技術的にヘタだったということに帰結するものであると感じた。

もっと言えば、トッティの前半1枚目のイエローカードは空中戦の競り合いで思いっきり腕を振ってキム・ナミルの顔面を殴ってたので、俺としてはこれを警告で済ませたあたり八百長でない証だろうと思う。
八百長をしてたらここで真っ先にトッティを退場させただろうから。

 

⑤に関してはイ・チョンス本人がわざとマルディーニの頭を蹴ったと表明していることからも絶対に退場処分にすべき危険行為だったと思うが、
現地で見ていた俺からすればこの試合の物議を醸した判定は「八百長ではなく、単に韓国が荒かった&それを複数見逃してしまうくらい単純にモレノ主審がヘタだった」ことによって引き起こされたものであると解釈している。
韓国擁護とかモレノ氏擁護というわけではなく。

そして、それ以上にイタリアはあまりにも多くのチャンスを逃し過ぎた。

 

 

大田駅に着く頃には、時計は0時を回っていた。

ここまで戻ってくればさすがに空気は落ち着いてきた。
思えば、後半の途中から何も飲んでいない。
喉がカラカラだ。

そんなことにも気づかないくらい興奮していたのかと、自分でも驚いた。

 

夜中でも開いている店があったので、そこで飲み物を買ってから宿に戻った。

18歳の少年が初めて来た国の知らない街で夜中の0時に外を歩いてるなんて今思えば補導案件だが、そんな時間の夜道をジュース飲みながらフラフラ歩いて帰ったのは不思議と心地よかった。

 

部屋に戻ると、テレビ局のほぼ全てが韓国対イタリアの試合をダイジェストなり録画放送なりで流していた。
さすがにちょっとお腹いっぱいなのですぐにテレビを消した。

宿のある地域は基本的に静かだったが、それでもこの夜ばかりは時々外から奇声や嬌声が聞こえてきた。

そうして、初めて一人で過ごす異国の夜は更けていったのだった。

 

 

<前回の6月17日分は コチラ

<次回は7月6日更新予定>

 

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(この情報は2002年6月時点のもので
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