6連戦が始まる。
その皮切りとなる6月9日(日)。
この日は宮城への日帰り観戦だ。
報道は20:30キックオフの日本対ロシアの話題でもちきりだが、俺は15:30キックオフのメキシコ対エクアドルに向かう。
この日も、新潟に行った時と同様に「やまびこ たび割7きっぷ」で東北新幹線を利用。
大宮-仙台市内の往復が普通なら2万円強のところ、往路で早朝の2本の「やまびこ」のどちらかを選べば13,100円で済むという優れモノだ。
このきっぷを使えば学割よりも安く宮城まで往復できる。
両親はもう少し遅い時間帯の新幹線で宮城に向かうらしいが、こちらは節約のために早めに出発する。
大宮駅でNさんと落ち合い、7時前の「やまびこ」に乗り込む。
アイルランドとは違い、この時点ではメキシコやエクアドルのサポーターはほとんど見かけない。
もう先に現地入りしているのだろうか。
埼玉に住んでいると、一昨日のように東京に出てから東海道新幹線に乗って京都や大阪に着くと「遠くに来たな」という気になるが、仙台はもう少し身近に感じられる。
この頃は「はやて」も「はやぶさ」も無い時代だったが、それでも9時前には仙台に着いた。
3日後も宮城での試合に来るので街歩きをするのは今日でなくても良かったが、週間予報によると次に来る時は曇りなので、観光というほどでもないが仙台の街を歩くことにする。
部屋の窓からメキシコの国旗が掲げられているホテルもあった。
宮城スタジアムでの試合も、チケットに書かれたスタンドによって仙台からのアクセスが指定される。
この日はアウェイ側となる南ゴール裏だったので、JR東北本線の利府支線に乗って終点の利府からシャトルバスに乗るというルートだ。
昼食をとってから仙台駅に戻る。
このように案内してくれる人たちがいたので、青春18きっぷを使った旅行などでもなかなか行くことのない利府への行き方を間違えることはない。
臨時列車に乗り、新幹線の広大な車両センターを横目に利府へ。
駅前のバス乗り場にはすでにワールドカップムードが漂っている。
中米のメキシコと南米のエクアドル。
ここまで6試合を観戦してきたが、いずれの試合も欧州勢絡みのカードだった俺にとってスペイン語が飛び交うこの空間は新鮮に感じられた。
バスに揺られ、丘の上というか山の上にある宮城スタジアムに到着。
風があり、素晴らしい青空だ。
一昨日の神戸のような蒸し暑さはなく、初夏の東北らしいカラッとした気持ちの良い気候に恵まれた。
両チームのサポーターも、心なしか表情が明るいように思える。
こうした空間の中にいると思う。
ワールドカップが日本に来てくれて良かった、と。
ここで、グループGの順位を勝ち点・得失点差・総得点の順に整理しよう。
1位 イタリア※ 3pt +1 2
2位 メキシコ 3pt +1 1
3位 クロアチア※ 3pt 0 1
4位 エクアドル 0pt -2 0
(※は2試合消化、他は1試合)
このうち、イタリアとクロアチアは前夜に2試合目を終えた。
つまり、ここでメキシコが勝てば勝ち点6で決勝トーナメント進出濃厚となり、エクアドルが勝てば全チームが勝ち点3で並ぶ大混戦となる。
エクアドルとしては負けると最終戦の突破条件が非常に難しくなるため、この第2戦はきわめて大事な試合になった。
さて、チケットに従って南側のゴール裏に入場。
今日も周囲の人はマルセロら6日前の札幌で席が近かった人が多い。
スウェーデンの試合では特に感じなかったが、ゴール裏のTSTだと3試合とも席が近くなるのだろうか?
コーナーのカテゴリー2やバックスタンドのカテゴリー1にもエクアドルの黄色で染まったエリアが。
一方、メキシコサポーターの深緑色もこちら側でさえ点在している。
青空と緑色のピッチという美しいコントラストの中、両チームの選手たちがウォーミングアップのために姿を現す。
エクアドルのゴール裏から、今日もみんなで
「Sí Se Puede! Sí Se Puede!」
と叫ぶ。
向こう側のメキシコサポーターは、もっと人数が多い。
「メヒコ! メヒコ! ラーラーラー!!」
の大コールと、
何か回しながら音を立てる楽器?だろうか、
「ガラガラガラガラガラガラガラーー!」
という音。
やっぱりワールドカップ常連国はひと味違う。
楽しみ方のレベルが一段上を行っている感を受けた。
試合前のボルテージが高まり、いつの間にか空席も埋まっていた。
そこを吹き抜けていく風がまた心地よい。
今大会、ここまでで一番の試合環境だ。
最高の試合が生まれそうな、そんな期待が高まる。
15時を過ぎても太陽の光は強い。
伊達政宗の兜をイメージした形状の屋根によってピッチのメインスタンド寄りだけは日陰となったが、それ以外は眩しい光線に照らされて選手入場の時を迎えた。
深緑のメキシコに、黄色のエクアドル。
ピッチに並ぶ選手たちの姿がこれまで以上に鮮やかに映る。
メキシコの国歌斉唱では、スタンドからド級の声量。
人数も多いがその倍くらいに感じられる声の「圧」だ。
イングランド、アイルランドも凄かったが、メキシコのサポーターも凄い。
次いで、エクアドルの国歌斉唱。
こちらも札幌の時より声量が大きい気がする。
モニターに映る選手の表情も、初出場の初戦だったイタリア戦よりも力強く見えた。
エクアドルはイタリア戦で封じられたベテランのゲームメーカー・アギナガをベンチに置き、若きイケメンFWイヴァン・カビエデスをスタメン起用。
より直線的なサッカーになるのかもしれない。
写真撮影を終えてピッチに散っていく選手たちへ、スタジアム中からスペイン語の激励と歓声が降り注ぐ。
大事な試合のキックオフだ。
初戦でイタリアに完封されたエクアドルと、初戦で勝ったもののPKのみだったメキシコ。
0-0のまま我慢比べが続くかもしれないという気もしたが、試合は早々に動く。
前半5分、向こうのゴールへ攻めるエクアドルが右サイドでチャンスを作ると、右サイドバックのウリセス・デ・ラ・クルスが左足に持ち替えてふんわりとしたクロス。
中央で待ち構えるエースの「ティン」デルガドが脅威的な高さのジャンプで豪快なヘッドを叩き込んだ!
「ッッッフオオオオオオオーーー!!!」
叫ぶエクアドルサポーター。
先制点、そしてワールドカップ初ゴールだ。
もう勝ったかのよう騒いでる人もいれば、放心状態になってしまってる人、そして近くのおばちゃんはこれ以上ないというくらいの満面の笑顔。
この後しばらく続く混沌ぶりがこの写真に詰まっていると言えるだろう。
先制点が早かったので、エクアドルとしては0-0のような気持ちでしばらくペースを維持したい。
しかし、さすがはメキシコ。
中盤のプレスも前線のキープ力も強い。
前半27分、こちら側へ攻めるメキシコは左からの低いクロスをボルヘッティがボレーでファーサイドに流し込む。
同点だ。
エースに決められたらエースが取り返す。
そんな漢気満点の一撃でメキシコサポーターは大歓声に沸く。
当時は日本代表の監督になるなんて思ってもいなかったメキシコのアギーレ監督もガッツポーズだ。
スタジアムに居るとわかるが、この圧の強さは、かなりこたえる。
すぐさま逆転、3点目とやられてしまいそうだ。
そうはさせるかとばかりにエクアドルも
「Sí Se Puede, Ecuador!」
のコールで応酬する。
また、チャントの中にある「Esta noche~」がこの日は「Esta tarde~」と昼仕様に変わっていることにもこの頃気付いた。
クロアチア戦は夜だからまた「Esta noche~」になるのだろう。
失点後に盛り返したエクアドルはイタリア戦のように失点を重ねることはなく、前半は1-1で終了。
このまま終わるとは思えない。
後半は間違いなく、さらに激しい展開になるだろう。
勝つことはもちろん大事だけれど、楽しむことも大事。
それがワールドカップだ。
後半はピッチの半分以上が日陰になった。
エクアドルがこちら側、メキシコが向こう側のゴールを目指す。
後半に入っても球際の攻防は激しい。
奪ったら奪い返す、そんなタイトな展開で双方ともなかなか決定機は作れない。
しかし、後半12分にメキシコがスコアを動かす。
前線に当てたボールが戻ってきたところを拾ったボランチのトラードが強烈な左足ミドル!
右サイドネットに突き刺さる鮮やかな弾道の一発で、スタジアムはメキシコサポーターの大歓声に包まれた。
反撃に出たいエクアドルだが、追加点を狙うメキシコの圧力は強い。
ブランコ、ボルヘッティを中心にゴールに迫られる。
ボルヘッティのシュートは左ポストを叩き、ダメ押しはまぬがれた。
エクアドルもデルガドと途中出場のテノリオにボールを集めようとするが、マルケスを中心とするメキシコのディフェンスラインは固い。
終盤、エリア内へ抜け出したテノリオが千載一遇のシュートチャンスを迎えるが、すかさず前に出てコースを制限した身長169cmのGKオスカル・ペレスにシュートの軌道を変えられた。
数少ない決定機を逸した後はゴールを脅かすことはできず、2-1のままタイムアップを迎えた。
勝ち点6、決勝トーナメント進出を濃厚にしたメキシコのサポーターが向こう側で大いに沸いている。
賑やかなエクアドルサポーターも、この時ばかりは沈黙だった。
グループGの順位は、残り1試合となりこのよう変わった。
1位 メキシコ 6pt +2 3
2位 イタリア 3pt +1 2
3位 クロアチア 3pt 0 1
4位 エクアドル 0pt -3 1
4日後の最終戦はメキシコ対イタリア、エクアドル対クロアチア。
メキシコとしては、イタリアに負けてさらにクロアチアが勝たない限り決勝トーナメント進出決定だ。
エクアドルは厳しい状況。
メキシコがイタリアに勝ったとしても、クロアチアに複数得点で勝たなければならない。
しかも、次戦が大分、突破すれば韓国行きと長距離移動が続くメキシコがイタリア戦でメンバーを落とす可能性も低くはない。
それでも、選手たちを拍手で迎え、
「Sí Se Puede! Sí Se Puede!」
と繰り返す。
横浜でのグループ最終戦が、彼らにとって忘れられない素晴らしい試合になるように。
そう思いながら、札幌の時と同様にマルセロや周囲のエクアドルの人たちとハグをしてスタンドをあとにした。
帰りも利府駅までバスに乗り、臨時列車で仙台へ向かう。
この上なく機嫌の良いメキシコサポーターがコールやチャントを繰り出す。
そこにエクアドルの人たちがジョークを飛ばす。
ジョークで返すメキシコ人、そこらじゅうで広がる笑い声。
試合では勝ち負けが分かれるが、試合が終われば同じサッカーを愛する者たち。
その気持ちがあれば、どちらのサポーターだって立派な勝者だ。
それがワールドカップなのだ。
思っていたよりスムーズに仙台に着けたので、新幹線に乗る前に牛タンを…と思ったら駅ナカの牛タンのお店はワールドカップ帰りの人たちでいっぱいだった。
仕方ないので駅弁を買って「やまびこ」に乗り込む。
車内はメキシコ人もエクアドル人も少ない。
もう少し仙台付近で過ごすのだろうか。
大宮に着く頃、そういえば日本のロシア戦はもう始まっていたなと思い出す。
Nさんと「また明日」と別れて家に帰ると、両親は少し先に着いていて日本戦の中継を見ていた。
疲れていたので先に風呂に入る。
明日は午前の飛行機で福岡、そして大分に向かう。
今朝も早起きだったので、なるべく早く寝ておきたい。
風呂から出て、最後の5分くらいだけ中継を見た。
日本は1-0で勝った。
グループHで最も強いと目されていたロシアに勝ったのだから、次のチュニジア戦も勝てるんじゃないだろうか。
このあたりは相変わらず、日本代表の戦いに熱中するというよりもどこか客観視している自分がいた。
思えば、日本でワールドカップを観戦する11試合のうち、今日で6試合目が終わった。
決勝トーナメントに入れば韓国で4試合見る予定であるとはいえ、日本での試合についてはいつの間にかもう半分過ぎてしまったのかと、急に寂しさを覚えた。
ここからは、きっともっと時間が早く過ぎていくはずだ。
後悔しないように、しっかり目を見開いて感じていこう。
明日は、1年半ぶりの九州が待っている。
<前回の6月7日-8日分は コチラ >
<次回の6月10日分は コチラ >
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もちろん東京オリンピックも10日間のチケットを当選済みで、ラグビーワールドカップも『チケット入手のコツ』を編み出して日本戦を含め開幕戦から決勝まで13試合を観戦。
2024年は夏にマイルを使って家族でパリオリンピック観戦旅行を計画中!
(この情報は2002年6月時点のものです。)
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